1.経営戦略とは

経営戦略とは、「企業の経営目的の実現のために企業の外部環境の変化に内部環境を適応していくための行動の指針」というものです。さまざまな表現の仕方やとらえ方がありますが、企業がいかに経営目的を達成し、存続・成長していくかということについての指針と捉えることができます。
この他、著名な経営学者は次のように表現しています。

●チャンドラー(A. DuPont Chandler)
企業の長期的目的および目標の決定、これらの目標を実行するために必要な活動方向と資源配分の決定。
●アンゾフ(H. Igor Ansoff )
経営戦略は、主として企業の外部的問題であり、外部環境の変化に企業を全体として適応させるために、参入すべき製品―市場構造の決定。

2.経営戦略構築の要素

経営戦略は、企業の外部環境の変化に対応するだけでなく、企業が掲げている目的や目標などの内部環境に基づいて構築します。この経営戦略策定のスタート地点になるのが、経営理念や経営ビジョンといったものです。

(1)経営理念・経営ビジョン・経営行動基準
経営戦略を構築する前提として最も重要なものが、経営理念、経営ビジョン、経営行動基準等です。企業が大切にしている事であり、進むべき方向性ともいうことができ、これらとの一貫性をもたせることでマーケティングやイノベーションを生み出すものです。

①経営理念
経営理念とは、経営者もしくは企業が表明するその企業の目的、存在意義、理想、価値観などを意味します。経営理念を通じて経営者は、「この組織は何のために存在するか」といった経営をする上での基本的な考え方を利害関係者に知らしめ、従業員に対して行動や判断の指針を与えるものです。経営理念は共通の価値観を育み、その実現に向けた経営戦略、組織構造、経営システム、組織スキル、人材の能力、組織文化を生み出す源泉となります。

②経営ビジョン
経営ビジョンとは、企業の経営者やマネジメント層によって作成、共有された、自社の望ましい未来像です。経営理念を前提にした経営姿勢や存在意義に基づき、一定時点までに「こうなっていたい」という到達点、つまり自社が目指す中長期的なイメージを、投資家や従業員等に向けて示したものです。

③経営行動基準
経営行動基準とは、経営理念を実現するために、どのような価値を前提とした行動を行うべきか示すためのものです。経営理念を実現させるためのチカラ王見出し、社員の行動を促進する力が機能するように具体化したものです。

 

(2)経営戦略のレベル
経営戦略は、企業戦略、事業戦略、機能戦略というように、組織の階層ごとに立てられるものであり、対象となる範囲やレベルによって分けられています。一般的に、企業戦略は全社戦略や成長戦略とも呼ばれ、経営層が策定するものです。次に、事業戦略は競争戦略とも呼ばれ、事業単位での責任者である中間管理層が策定するものです。単一事業だけを展開している企業は、企業戦略と事業戦略は企業全体として策定することになるため、この場合、経営層が事業戦略を策定します。そして、機能戦略は、企業戦略や事業戦略を具現化するために、営業、製造、財務、情報システム等の経営の機能別に戦略を構築するものです。これらの3つのレベルが統一して機能することが大切とされています。。

①企業戦略(成長戦略)
企業戦略とは、企業が持続的な成長を維持していくためのものであり、成長戦略と呼ばれます。企業全体としての生存領域を決定したり、新規事業の展開や既存事業からの撤退、そして、各事業への経営資源の配分などを決定していくことです。具体的な検討事項は、以下の通りとなります。
●企業ドメイン
●リソースベースドビュー
●多角化戦略
●PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)。

②事業戦略(競争戦略)
事業戦略(競争戦略)とは、特定の事業分野における競争状態を踏まえた上での自社のポジションの確立や、経営資源の蓄積や組み合わせにより、競合企業に対する競争優位性を確立するためのものです。具体的な検討事項は、以下の通りとなります。
●事業ドメイン
●ポーターの3つの競争戦略
●競争地位別戦略

③機能戦略
機能戦略は、企業の内部機能である購買、生産、営業、研究開発、財務、人事、情報システムなどの各機能の生産性を高めることに焦点をあてた戦略です。

3.SWOT分析(経営環境分析)

経営戦略を策定するには、企業が置かれている経営環境を把握・分析することが重要です。このフレームワークとしては、3C分析、SWOT分析等がありますが、より具体的な戦略項目を検討するためには、SWOT分析が最も適しています。積極戦略の構築に加え、リスクベース思考によるリスクマネジメントの視点まで幅広く検討することが可能になります。

(1)外部環境分析
外部環境分析とは、企業が影響を受ける外部環境について、機会(Opportunity)となる要因と、脅威(Threat)となる要因とを明確に抽出することです。外部環境とは、企業の内部にあるコントロール可能な経営資源が対象ではなく、コントロールが比較的困難な企業の外側にある経営環境が分析の対象です。
具体的には、政府機関の意思決定などによる規制緩和・強化等の政治・法律的環境、経済成長率や景気動向、金利の動向などの経済・金融的環境、出生率や人口規模などの人口態やグローバル化等の社会・文化的環境、インターネットやAI等の技術的環境といったマクロ的視点での外部環境と、市場・業界動向、顧客ニーズの動向、競合他社の動向、業界の技術動向といったミクロ的視点での外部環境について分析するものです。

(2)内部環境分析
内部環境(資源)分析とは、企業の経営資源についての強み(Strength)と弱み(Weakness)を明確に抽出することです。さらに、競合企業の強みと弱みとの比較を行い、経営資源を評価することです。。

(3)クロスSWOT分析
SWOT分析から導き出される戦略代替案の基本パターンは、内部環境の強み・弱みと外部環境の機会・脅威の掛け合わせにより案出することが可能です。これはクロスSWOT分析と呼ばれますが、特に重要な要因を一つずつ掛け合わせることにより、有効性の高い戦略案を検討することが可能となります。

●強み(S)×機会(O): 強みを活かし機会をつかむ
●弱み(W)×機会(O): 機会を逸しないように弱みを克服する
●強み(S)×脅威(T): 脅威からの影響を最小限にとどめる
●弱み(W)×脅威(T): 撤退し他に委ねる

4.経営管理

経営戦略には目標を達成するための解決策、行動計画、作業手順等、つまりは計画(Plan)としての側面があります。しかしながら経営目標を達成するためには、単に計画を立てるだけでなく、企業内部の人、物、金、情報・ノウハウ等の経営資源をより効率的に活用するために、マネジメントしていくことが必要です。そのためのフレームワークとして、PDSサイクルやPDCAサイクルがありますが、最も一般的かつ具体的でわかりやすいマネジメント手法がPDCAサイクルです。

(1)PDCAサイクル
組織や個人が組織の目的・目標達成の管理活動のためのフレームワークとして、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルというものがあります。
まず、組織の目的の実現を踏まえた戦略に沿って目標を設定し、それを具体的な計画(Plan)に落とし込むことから始まります。次に計画に基づき行動(Do)していきますが、組織構造と役割を決めて人員を配置するなどの実装を行い、組織構成員の動機づけを図りながら、具体的な行動を指揮・命令していきます。途中で成果を測定・評価(Check)し、必要に応じて修正を加える(Action)という手順です。1つのサイクルが終わったら、反省点をふまえて再計画のプロセスへ入り、次期もまた新たなPDCAサイクルを進めていきます。より自主的にPDCAサイクルを回すためには、まず、計画を持つことが重要ですが、できたこと/できなかったことを確認し、次の計画を自分で生んでいくことが最も重要なことです。

(2)経営計画の期間と種類
経営計画とは、企業において策定される様々な計画のことであり、誰が、いつ、何を行うのかといった具体的な行動予定のようなものです。仕事の手順や基準等が具体的に書いてあるものであり、良い計画は書いている通りに行動することで目的・目標達成ができるものです。
また、行動計画にはプロジェクトの計画と、プロセスの計画の2つの種類があります。プロジェクトの計画は目的・目標達成のためのルーティーンワーク以外のタスクを行うものであり、プロセスの計画とは、ルーティーワークを行い仕事の手順と基準を定めるものとされています。プロセスの計画は、プロジェクトの計画の一部として考えるのが妥当です。
また一般には、1年以内の計画を短期計画、2~3年の計画を中期計画、3~5年の計画を長期計画という場合があるが、作成する計画の意味合いによっても、目標を達成する期間設定が変わります。経営者の人生のレベルの目標設定の場合は、中期計画が3~5年、長期計画は10~30年のケースもあります。計画期間は、経営計画での取り組み内容の実現に要する期間によっても影響を受けると考えられます。

そして、経営計画の策定にあたっては、以下のような手順により作成するが、特に、全社目標と部門目標のすり合わせにより、実現性の高い計画とすることが重要です。

①戦略策定のガイドラインの提示
経営理念・ビジョン・戦略、全社・部門別損益・資金計画等、プロジェクトの前提となる枠組みを与えることで、会社の方向性や指針を社員に対して明確に提示します。

②中長期計画の作成(各部門)
戦略策定のガイドラインに沿って、全社目標の達成に向けた各部門毎のビジョン・戦略を策定します。この際には、売上高、売上総利益、販売管理費、営業利益などの損益計画を立案するのと同時に、その実現に必要となる設備・人材等の投資と資金計画についても設定し、経営者に対して予算請求をすることになります。特に、中長期計画の際には、単年度計画では実現ができない研究開発・製品開発、新規事業開発、人材育成などをテーマにしたものが望ましいとされています。

③全社計画を作成(トップと各部門のすりあわせ)
各部門から収集した部門別の中長期計画のビジョンをすり合わせ、損益の調整を行い、その結果、投入する資金の予算を確定します。各事業の現状を理解した現場の意見を取り入れることで、市場・競合環境、自社の組織の状況を踏まえた実現可能な計画とすることが重要です。そして、企業の持続的成長を実現する全社・成長戦略を実行し、企業として取り組む重点的な事業の設定を行い、資源配分を行います。

④事業計画を作成(各部門)
各部門の中長期計画をすり合わせた全社計画に基づき、更に各部門に振り分けられた損益・資金に関する予算を実現するために、部門別事業計画を策定します。そして、策定された中期経営計画は単年度計画としてさらに具体化します。最終的な目標・計画を確定させる段階であるため、必達目標として設定し、方針発表会などを通じ他部門への協力依頼をするなど、達成に向けた意思を固め、関係者全員に目標として周知することが重要です。全社レベルの指標は財務を中心としたものになりますが、事業別、機能別の場合は、現場の社員が目標としてイメージが容易で達成の意味が感じられる指標に落とし込んだ上で行動計画を立案する必要があります。

⑤PDCAにより進捗の管理を行う(経営企画部門)
策定された中長期計画に基づき策定された単年度計画は毎月、経営指標として管理し、達成状況をモニタリングします。プロセスの計画を含むプロジェクトの計画はアクションプランとして進捗管理をします。このことにより、業務プロセスが改善されることによって組織や経営システムが強化されていきます。また、できたこと/できなかったことを明確にし、部下に対してはフィードバックし、企業や事業の目的・目標を達成する能力を高めていきます。

(3)経営計画の修正や不測の事態への対応
企業を取り巻く環境の変化が激しいため、計画が陳腐化したり、計画策定時点では予期しなかった事象が起こったりする可能性が高くなっています。このような状況に対応するための経営計画の作成・修正方法として、ローリングプランとコンティンジェンシープランがあります。

①ローリングプラン
ローリングプランは、中・長期計画の内容を定期的に見なおし、部分的に修正を加えていく方法であり、常に一定の計画期間を見直し、前進し続ける毛方法です。対義語としては、三セットプランと呼ばれるものがありますが、一旦決定した計画期間を必ず完了させ、目標必達の計画と言われます。

②コンティンジェンシープラン
コンティンジェンシープランは、企業の業績に対する影響の大きい不測事象をあらかじめ想定し、その状況に合わせた適応行動を事前に策定しておき、その内容を具体化したものである。状況対応計画、あるいはシャドープランともいわれるものです。

③BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)
BCPは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

4.経営管理

経営戦略には目標を達成するための解決策、行動計画、作業手順等、つまりは計画(Plan)としての側面があります。しかしながら経営目標を達成するためには、単に計画を立てるだけでなく、企業内部の人、物、金、情報・ノウハウ等の経営資源をより効率的に活用するために、マネジメントしていくことが必要です。そのためのフレームワークとして、PDSサイクルやPDCAサイクルがありますが、最も一般的かつ具体的でわかりやすいマネジメント手法がPDCAサイクルです。

(1)PDCAサイクル
組織や個人が組織の目的・目標達成の管理活動のためのフレームワークとして、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルというものがあります。
まず、組織の目的の実現を踏まえた戦略に沿って目標を設定し、それを具体的な計画(Plan)に落とし込むことから始まります。次に計画に基づき行動(Do)していきますが、組織構造と役割を決めて人員を配置するなどの実装を行い、組織構成員の動機づけを図りながら、具体的な行動を指揮・命令していきます。途中で成果を測定・評価(Check)し、必要に応じて修正を加える(Action)という手順です。1つのサイクルが終わったら、反省点をふまえて再計画のプロセスへ入り、次期もまた新たなPDCAサイクルを進めていきます。より自主的にPDCAサイクルを回すためには、まず、計画を持つことが重要ですが、できたこと/できなかったことを確認し、次の計画を自分で生んでいくことが最も重要なことです。

(2)経営計画の期間と種類
経営計画とは、企業において策定される様々な計画のことであり、誰が、いつ、何を行うのかといった具体的な行動予定のようなものです。仕事の手順や基準等が具体的に書いてあるものであり、良い計画は書いている通りに行動することで目的・目標達成ができるものです。
また、行動計画にはプロジェクトの計画と、プロセスの計画の2つの種類があります。プロジェクトの計画は目的・目標達成のためのルーティーンワーク以外のタスクを行うものであり、プロセスの計画とは、ルーティーワークを行い仕事の手順と基準を定めるものとされています。プロセスの計画は、プロジェクトの計画の一部として考えるのが妥当です。
また一般には、1年以内の計画を短期計画、2~3年の計画を中期計画、3~5年の計画を長期計画という場合があるが、作成する計画の意味合いによっても、目標を達成する期間設定が変わります。経営者の人生のレベルの目標設定の場合は、中期計画が3~5年、長期計画は10~30年のケースもあります。計画期間は、経営計画での取り組み内容の実現に要する期間によっても影響を受けると考えられます。

そして、経営計画の策定にあたっては、以下のような手順により作成するが、特に、全社目標と部門目標のすり合わせにより、実現性の高い計画とすることが重要です。

①戦略策定のガイドラインの提示
経営理念・ビジョン・戦略、全社・部門別損益・資金計画等、プロジェクトの前提となる枠組みを与えることで、会社の方向性や指針を社員に対して明確に提示します。

②中長期計画の作成(各部門)
戦略策定のガイドラインに沿って、全社目標の達成に向けた各部門毎のビジョン・戦略を策定します。この際には、売上高、売上総利益、販売管理費、営業利益などの損益計画を立案するのと同時に、その実現に必要となる設備・人材等の投資と資金計画についても設定し、経営者に対して予算請求をすることになります。特に、中長期計画の際には、単年度計画では実現ができない研究開発・製品開発、新規事業開発、人材育成などをテーマにしたものが望ましいとされています。

③全社計画を作成(トップと各部門のすりあわせ)
各部門から収集した部門別の中長期計画のビジョンをすり合わせ、損益の調整を行い、その結果、投入する資金の予算を確定します。各事業の現状を理解した現場の意見を取り入れることで、市場・競合環境、自社の組織の状況を踏まえた実現可能な計画とすることが重要です。そして、企業の持続的成長を実現する全社・成長戦略を実行し、企業として取り組む重点的な事業の設定を行い、資源配分を行います。

④事業計画を作成(各部門)
各部門の中長期計画をすり合わせた全社計画に基づき、更に各部門に振り分けられた損益・資金に関する予算を実現するために、部門別事業計画を策定します。そして、策定された中期経営計画は単年度計画としてさらに具体化します。最終的な目標・計画を確定させる段階であるため、必達目標として設定し、方針発表会などを通じ他部門への協力依頼をするなど、達成に向けた意思を固め、関係者全員に目標として周知することが重要です。全社レベルの指標は財務を中心としたものになりますが、事業別、機能別の場合は、現場の社員が目標としてイメージが容易で達成の意味が感じられる指標に落とし込んだ上で行動計画を立案する必要があります。

⑤PDCAにより進捗の管理を行う(経営企画部門)
策定された中長期計画に基づき策定された単年度計画は毎月、経営指標として管理し、達成状況をモニタリングします。プロセスの計画を含むプロジェクトの計画はアクションプランとして進捗管理をします。このことにより、業務プロセスが改善されることによって組織や経営システムが強化されていきます。また、できたこと/できなかったことを明確にし、部下に対してはフィードバックし、企業や事業の目的・目標を達成する能力を高めていきます。

(3)経営計画の修正や不測の事態への対応
企業を取り巻く環境の変化が激しいため、計画が陳腐化したり、計画策定時点では予期しなかった事象が起こったりする可能性が高くなっています。このような状況に対応するための経営計画の作成・修正方法として、ローリングプランとコンティンジェンシープランがあります。

①ローリングプラン
ローリングプランは、中・長期計画の内容を定期的に見なおし、部分的に修正を加えていく方法であり、常に一定の計画期間を見直し、前進し続ける毛方法です。対義語としては、三セットプランと呼ばれるものがありますが、一旦決定した計画期間を必ず完了させ、目標必達の計画と言われます。

②コンティンジェンシープラン
コンティンジェンシープランは、企業の業績に対する影響の大きい不測事象をあらかじめ想定し、その状況に合わせた適応行動を事前に策定しておき、その内容を具体化したものである。状況対応計画、あるいはシャドープランともいわれるものです。

③BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)
BCPは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

(3)競争優位の戦略

競争優位の戦略とは、競合企業に対して競争優位性を築くための戦略のパターン展開のことを示しています。ポーターは、戦略の優位性と戦略ターゲットを軸に、競争戦略の3つの基本戦略として、差別化戦略、コストリーダーシップ戦略、集中戦略、をあげています。さらに、これらの戦略を実現するためには、企業活動の全体最適化をする必要がありますし、そのフレームワークとして価値連鎖(バリューチェーン)を示しています。

①差別化戦略
差別化戦略とは、自社の製品に買い手にとって魅力的な独自性を打ち出すことにより、競合企業に対する競争優位性を価格以外の点で構築する戦略です。競合企業が模倣するにより、差別化された特徴の優位性が喪失するリスクがあります。代表的な差別化の方法は、以下のとおりとなります。
●製品の品質、性能、デザイン、色彩、包装などについて差別化する。
●アフターサービス、代金の支払い条件、店舗数など付加サービスについて差別化する
●広告による製品の社会的認知度、企業イメージなどを高めることでついて差別化する。

②コストリーダーシップ戦略(低コスト戦略)
コストリーダーシップ戦略とは、同種の製品を競争企業よりも低いコストで生産・販売する戦略である。大量生産による低コスト製品を提供することによりシェアを高め、規模の経済性や経験曲線効果を得ることにより、更なる低コストを実現するものです。競合企業がこの戦略を模倣すると、利益を度外視した激しい価格競争が行われ、収益性が低下するリスクがある

③集中戦略(コスト集中/差別化集中)
差別化戦略やコストリーダーシップ戦略が広い市場をターゲットとするのに対し、集中戦略は市場を細分化し、自社の能力にマッチした一部のセグメントに焦点をあてるものです。そして、その市場において差別化の面もしくはコストの面で優位に立とうとする戦略であり、特に差別化することは中小企業にとっては需要は戦略です。ターゲットセグメントが狭いため、資金力や従業員数などの経営資源を豊富に有する競合企業の参入により、大幅にシェアを失うリスクがあります。

(4)価値連鎖(バリューチェーン)
企業の活動は、製品の設計、製造、マーケティングといった多くの活動で構成されている。価値連鎖は、企業の活動すべてとそれらの関係を体系的に分析するものである。また、価値連鎖は価値システムの中に組み込まれることになる。

①価値連鎖(バリューチェーン)
業界構造分析を行った上で、差別化や低コスト化によって高い収益性を確保するためには、企業活動の全体最適化をしていく必要があります。価値連鎖とは、そのためのフレームワークであり、事業活動を機能ごとに分解し、どの機能で差別化や低コスト化等の比較優位性が生み出されるのか、どの部分に強み・弱みがあるのかを分析するものです。そして、競争優位のポイントを見定め、企業全体として顧客に価値を提供できるように活動をつなぎ、全体最適化を行うためのものです。

●支援活動
・全般管理(インフラストラクチュア)
・人事・労務管理
・技術開発
・調達活動

●主活動
・購買物流
・製造
・出荷物流
・販売・マーケティング
・サービス

●マージンを産む原理
企業の価値連鎖は、主活動と支援活動からなります。主活動は製品・サービスを顧客に提供することに直接的に関与する活動です。具体的には、購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスなどがあります。支援活動は製品やサービスを提供する活動には直接関与しないですが、主活動を遂行していくためには不可欠になる活動です。具体的には、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動等です。こうした、一連の活動の結果としてマージンが生み出されます。
価値連鎖の中の一部分の活動だけが低コストや差別化を実現していても、それだけでは有効性は高いとは言えません。企業全体の活動が相互に連結されてはじめて価値を顧客まで届けることができるからです。逆に、全体として連結されたうえで提供された価値であるのであれば、競合他社は一部分だけでなく、全体を模倣しなくてはならないため、競争優位の持続性を高めることができます。企業が複数事業を展開している場合には、単一事業内での活動の連結にとどまらず、事業間の活動の連結も考慮する必要があります。

②価値システム
一般的に企業が生み出す価値がエンドユーザーに届くまでには、原材料の供給、製造、物流、販売といった一連の流れを経る必要があります。各プレーヤーごとに価値連鎖があるということをふまえると、川上から川下に至る一連の流れは「各プレーヤーの価値連鎖」の連鎖という大きな価値システムということになります。つまり、売り手が供給する製品・サービスを通じての価値は買い手の価値システムに組み込まれることになります。

 

(1)企業戦略(成長戦略)

企業戦略(成長戦略とも呼ばれる)は、企業が中長期経営計画において、存続と成長を維持していくために、企業全体としてどのような領域で事業活動をしていくのか、どのような新規事業を展開するのか、各事業への経営資源の配分をどうするか、といったことを決定していくものです。つまり、複数の事業を展開している企業の場合には、各事業の状況を踏まえた戦略を実行することにより競争優位を築くことに加え、企業全体としてどのような事業領域で、何に集中して経営を行っていくのかを、戦略的に組み立てていく必要があります。
具体的なテーマは、企業ドメイン、リソースベースドビュー(ケイパビリティ)、多角化、PPM、外部組織連携などです。

(2)ドメイン

ドメインとは事業領域、つまり、自社の事業がどのような製品・サービス分野、顧客層、もしくは、技術の分野であるかを定義することあり、現在から将来にわたって、企業の事業価値を提供することをを明示した生存領域のことを示しています。
ドメインを設定する範囲は、狭すぎれば顧客ニーズに応えきれない、もしくは、対象となる市場が小さくなり経営を辞しすることが難しくなり、広すぎれば経営資源が分散することにより不足が生じ、多様な市場に参画することで多数の競合企業との競争に巻き込まれることになります。そのため、適切な範囲で設定することが重要になります。
このドメインは環境変化に応じて変化させる必要があります。また、ドメインの変更は、組織内部の共通認識を得ると同時に、組織外部に対しても情報共有することで合意を得ることが重要であるとされています。

①ドメインを設定する必要性
●企業の意思決定者たちの注意の焦点が定まる(その結果、事業展開の発案のベースが提供される)。
●どのような経営資源の蓄積が必要かについての指針となる。
●企業全体を1つの組織とする一体感をつくる。
ドメインの設定に際しては、自社の経営資源を考えて、どのような領域で強みを発揮できるかという点と、自社の将来のあるべき姿を考えて、今後必要な経営資源を蓄積していくためにはどのような領域で活動する必要があるかという点について検討すべきである。

②物理的定義と機能的定義
ドメインを定義する方法としては、物理的定義と機能的定義があります。それぞれにメリットやデメリットがあるため、その特徴を理解しておく必要があります。

●物理的定義
「モノ」に焦点を当ててドメインを発想する方法です。「フィルムメーカー」が自社の事業領域を『フィルムの製造』と定義する」というように定義するものです。
物理的定義のデメリットは、「モノ」に焦点があることから事業活動の展開範囲が狭くり、現在の事業領域が足かせとなることによって発想が出にくいという点があげられます。また、その「モノ」が競合製品・サービスや代替品により存在意義を失った際に、新しい製品・サービスを生み出しにくいという状況が起こります。

●機能的定義
物理的定義が「モノ」を中心に発想することに対し、機能的定義は「コト」であり、「顧客に提供する価値」を中心に発想するというものです。「カセットテープのメーカーが、自社の事業領域を『心動かす音の提供』と定義する」というようなことがその例です。
機能的定義のメリットは、事業が提供する価値をベースに、将来の発展可能性を感じさせるという点において優れている。その一方で、ドメインの表現が抽象的になりすぎて、ターゲットとなる顧客や事業(製品・サービス)の特徴が不明確になりやすいというリスクもあるとされています。

 

(3)ドメインの種類

多角化などにより複数の事業を展開する企業においては、ドメインの設定は企業全体としての事業領域である企業ドメインと、事業ごとの展開領域である事業ドメインの2つのレベルで設定されることがあります。

①企業ドメイン
企業ドメインを規定するということは、展開していく事業の範囲、あるいは組み合わせを規定するということであり、企業としてのアイデンティティを表現していくことでもあります。この企業ドメインという枠組みの中に複数の事業を持ち、その組み合わせを考えていくことを事業ポートフォリオと呼びます。

②事業ドメイン
事業ドメインは、特定の事業の展開を行う範囲を規定したものであり、具体的にはどのような顧客をターゲットにし、どのようなニーズを満たしていくのかといったことを規定するものです。
事業ドメインを定義する方法として最も一般的に活用されているものは、、エーベルの3次元定義です。これによると、エーベルはドメインを考える際には、どんな顧客に対して、どんな機能を、どのような技術によって提供していくのか、というように3つの次元をもとに設定していくことを提唱しています。

③戦略ドメイン
戦略ドメインは、企業ドメインとは違い、企業の成長ベクトルに沿って戦略的な取り組みが必要な、顧客、製品・サービスなどを限定し、市場浸透戦略、新製品開発戦略、新市場開拓戦略などを行う際に定義するものです。企業ドメインで規定する範囲の中で設定される場合と、企業ドメインを超えた中で設定される場合があります。

④事業コンセプト
エーベルの3次元定義に近い方法で、誰に(顧客ターゲット)、何を(顧客ニーズ・ウォンツ)、どのように(独自能力)の組み合わせによる表現のことを事業コンセプトといいます。この事業コンセプトは、3C分析の結果得られるものでもあり、市場・顧客を選択し、自社の強みに集中し、競合企業と差別化するための事業を定義する表現です。利害関係者に共有することにより、事業がどのようなものであるのか、あるいは、どのような差別的な優位性があるのか、そして、事業が顧客に提供する価値を定義することが可能となります。

(4)リソースベースドビュー

経営目的の実現に向けて活動する企業は経営資源の集合体であるととらえることが重要であり、組織内のマネジャーは経営資源を最大限活用することにより実現させる責任があります。リソースベースドビューとは、経営資源に基づいた企業観ということができますが、その前提には「企業ごとに有している経営資源は異質である」という考え方があります。つまり、その経営資源の異質性をベースにして競争優位の戦略の構築を考えるものです。エディス・ペンローズが提唱した考え方ですが、ポーターが提唱するポジショニング・アプローチと対をなすものです。

①VRIO分析

VRIO分析とは、以下の4つの視点に基づき、自社の経営資源を分析する手法です。経営資源は人、物、金、情報などがあげられますが、その中でも企業が有するノウハウや専門的なスキルといった情報と呼ばれる経営資源は、汎用的な設備といった物的な経営資源と比較して模倣困難性が高く、持続的な競争優位の源泉にすることができます。自社の経営目的に沿って形成されたスキルやノウハウは独自性を持つことにつながり、事業コンセプトに多大な影響を与えることとなります。

●資源の価値(Ⅴ:Value)
その経営資源により生じる能力があれば、事業機会を逃すことがなく、脅威に対しても対応できるかどうか。

●資源の希少性(R:Rarity)
競合企業がその経営資源をどの程度の確率で、その価値ある経営資源による能力を既に保有しているのか。

●資源の模倣困難性(I:Inimitability)
特定の経営資源を持っていない企業が、その経営資源を獲得・開発しようとすると、コスト・時間面で困難さが生じるか。
また、模倣困難性を規定する要因には、次の4つがあります。

・独自の歴史的条件
「該当する経営資源が、その企業独自の歴史的な過程の結果として形成されたものかどうか」という意味になります。独自の歴史的条件に関連する言葉として経路依存性というものがありますが、当初の取り組みの結果として起きたことが、その後の発展経路を規定するという意味になります。企業が現時点で競争優位を獲得できているのは、それ以前の段階で獲得したり開発したりした中で生じた経営資源があるからであるという考え方です。経路依存性が高い経営資源は、他の企業がその経営資源が形成されるに至る一連の過程をそのまま辿ることはもはや不可能であるため、模倣困難性が高くなります。
・因果関係の不明性
「該当する経営資源と競争優位性との因果関係が不明である程度のこと」という意味になります。例えば、組織文化のようなものは、組織の構成員にとっては空気のようであり、あまりに自然な経営資源となっている、あるいは、組織内の複数の要素が複雑に絡み合って形成されている、組織内に広く分散した状態で存在するといったような場合は、因果関係の不明性が高く、それだけ模倣困難性が高いということになります。
・社会的複雑性
「該当する経営資源が非物理的で社会的な要因から生じるものかどうか」という意味になります。社内コミュニケーションや文化、対外的評判などが該当します。
・特許
「該当する資源が特許等の知的財産権として確立されているかどうか」という意味になります。ただし、知的財産権として法的な保護対象となっているものであったとしても、模倣されるリスクがなくなるわけではない点には留意する必要があります。

●組織(O:Organizations)
その経営資源から生じる能力の潜在力を十分に引き出し、活用するように企業は組織を構築し、運用しているか。

★VRIO分析の視点

・「希少性が低い」とは、現時点で競合他社が保有している経営資源である
・「模倣困難性が低い」とは、現時点で他社は保有していないが、近い将来保有することが可能な経営資源である
・ VRIO分析の要素のうち、Ⅴだけでは「競争優位の源泉とはならない」
・ⅤとRを満たせば一時的な競争優位の源泉となる
・ⅤとRとIを満たせば持続的な競争優位の源泉となる
・そして、Oも満たすことで、実際に持続的な競争優位を築ける。
・事前に予測することが困難な環境変化は、経営資源が持続的な競争優位の源泉であることを困難にする。

②コアコンピタンス

競争優位の源泉となる経営資源としてよく用いられるものにコアコンピタンスというものがあります。これは、「独自性を生み出す組織能力」というように無形の経営資源を示すものとして用いられることが非常に多いものです。模倣困難性が高いという点が最も重要なことであり、顧客価値の創造に重要な役割を持つといわれています。
コアコンピタンスは企業が複数の事業を展開する多角化戦略を実行する際に活用することができるものであり、特にコアとなる経営資源という意味で用いられることが多くなっています。ソニーの小型化技術やカシオの薄型技術などがその代表として取り上げられることが多いです。つまり、様々な市場や製品に展開する際に活かすことができる経営資源ということができます。

(5)製品=市場マトリックス

企業戦略(成長戦略)では、企業がどのような製品・市場領域で事業を行うのかを決定することが最も重要なことになります。製品=市場マトリックスによって、製品と市場、それぞれの新規と既存の組み合わせによって経営戦略の展開エリアを4つに分類したものです。

①経営戦略の4つの展開

●市場浸透戦略
既存市場に既存製品を投入し、販売を拡大する戦略です。広告宣伝や価格などのマーケティング要素をより効果的なものにすることで市場シェアを拡大し、経営目標達成を目指します。

●新市場開拓戦略
新規市場に既存製品を投入し、新たな市場での販売を拡大する戦略です。既存製品を未開拓であった新しい顧客層などの市場に展開して売上を獲得するものです。海外市場への進出や業務用市場への進出、女性用製品を男性用として販売することなどはこの例と言えます。

●新製品開発戦略
既存市場に新製品を投入する戦略です。既存顧客のニーズを捉え、新しい機能を付け加えることにより、今までとは異なる品質の新製品を開発する、大きさや色などが異なる追加機種を開発するなど、既存製品に改良を加えるなどの方法があります。具体的には自動車や携帯電話などの製品で新機種を追加したり、デザインを変更したりするなどのモデルチェンジ政策に見られるものです。

●多角化戦略
新規市場に新製品を投入する戦略です。ここでの多角化戦略は前述の既存市場・製品とは全く関係のない無関連多角化を意味します。

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